坂越湾の牡蠣|生島の森と千種川が育てる、穏やかな漁場

十月も半ばになり、坂越湾の朝は空気がひんやりしてきました。
私たち光栄水産は、兵庫県赤穂市の坂越(さこし)湾で、牡蠣を育てています。この日誌では、海の上や加工場で毎日続けている仕事を、写真といっしょに書いていきます。牡蠣を選ぶとき、産地の名前だけでなく、その海がどんな姿をしているかを知っていただけたら。そんな思いで書いています。第1回は、牡蠣を育てている「海そのもの」の話です。
山と島に囲まれた、波のおだやかな湾
坂越湾は、兵庫県の西のはし、岡山県との県境に近い赤穂市にある、瀬戸内海(播磨灘)に面した小さな湾です。まわりを山と島に囲まれていて、外の海の波が入りにくく、湾のなかは波がおだやかです。上の写真は、山の上から湾を見下ろしたところです。弓のようにカーブした浜に沿って港町が広がり、湾の中ほどには緑の島が浮かんでいます。この島が「生島(いきしま)」です。
波がおだやかなことは、牡蠣を育てるうえで大切な条件のひとつです。牡蠣は、筏から吊るした状態で何か月も海のなかで暮らします。荒れやすい海では、吊るしたものが揺さぶられ続けてしまいます。山や島に囲まれた湾は、その点で、牡蠣を育てる場所に向いています。

生島の森|人が立ち入らず、守られてきた島
もう1枚の写真は、生島の岸辺です。水辺に鳥居と社殿が建ち、うしろには島の森の緑が重なります。海と山、そして人びとが祈りをささげてきた場所が、近い距離にある。それも坂越という土地の特徴です。
生島は、大避(おおさけ)神社の神域として、古くから人が立ち入ることを禁じられてきた島です。島をおおう樹林は「生島樹林」と呼ばれ、国の天然記念物に指定されています。さらにこの森は、魚つき保安林にもなっています。魚つき保安林とは、海辺の森が魚や貝の暮らす海を守るはたらきをもつことから、その森を切らずに残していくために指定される森のことです。
人の手が入らずに守られてきた森が、湾のまんなかにある。牡蠣を育てている私たちにとっても、心強い景色です。海の上から見ても、島の緑は湾のどこからでも目に入る、この海の目印のような存在です。
千種川|山のふもとから流れ込む清流
坂越の海に養分を運ぶもうひとつの存在が、赤穂の町を流れる清流、千種川(ちぐさがわ)です。山に降った雨が川になり、やがて海へ届く。その道すじの途中にある森や土の養分が、川の水といっしょに湾へ運ばれていく、と考えるとわかりやすいかもしれません。
牡蠣は、海水のなかにいる小さなプランクトンなどを、海水ごと取り込んで食べて育ちます。そのため、牡蠣の育つ海では、餌のもとになる栄養がどれだけ届くかが大きな意味をもちます。生島の森と、千種川が運ぶ山の養分。坂越の海には、この両方から養分が流れ込んでいます。山と川と島と海がつながっている湾、というのが、この場所を言い表すいちばん短い言葉かもしれません。
この海の恵みを、牡蠣という形で
坂越湾の牡蠣を、いつでも手にとっていただけるものとして、公式通販では冷凍むき牡蠣をお届けしています。

牡蠣にとっての海と、湾に並ぶ筏
牡蠣は、魚のように自分で泳いで餌を探しに行くことができません。一度ついた場所で、まわりの海水が運んでくるものを取り込んで育ちます。つまり、牡蠣にとっての海は、住む場所であると同時に、食卓そのものでもあります。海水の流れ、水の温度、川から届く養分。そうした海の条件が、牡蠣の育ち方を大きく左右します。牡蠣を育てる仕事は、どの海を選ぶかから始まる、と言ってもいいくらいです。
そして、この海のうえに浮かんでいるのが、牡蠣を育てる筏です。写真のとおり、細長い筏が水面に横たわるように浮かび、湾のなかに何列も並んでいます。海の上から見ると、筏は島や山の稜線と重なって、坂越湾の風景の一部になっています。
冬の牡蠣を育てる方法は「垂下式(すいかしき)」といいます。筏から、牡蠣をつけたロープを海のなかに縦に吊るし、そのまま海のなかで育てる方法です。牡蠣は海水のなかで、一日じゅう海水を取り込みながら育ちます。
筏のうえで作業をするのも、船を出して牡蠣を引き上げるのも、私たちスタッフの仕事です。この日誌では、これから毎週木曜に、海の上の作業、牡蠣の一年の流れ、加工場の仕事、冷凍のしくみなどを、順番に書いていきます。牡蠣を育てる一年の流れは、別の回で暦の形にまとめました。
この季節の牡蠣
10月は、冬の牡蠣の出荷をひかえた時期です。坂越の冬の生かきは、12月初旬〜中旬からのお届けを予定しています。それまでのあいだは、冷凍むき牡蠣など、通年お届けしている商品をご覧ください。海の話を読んでくださった方が、次に牡蠣を手にとるとき、湾の景色を少し思い出していただけたらうれしいです。